一年を24に分けたものを二十四節気と呼び、
それをさらに3等分ずつにしたものを七十二候と呼びます。
ひとつの節気で大体15日間、ひとつの候で約5日間です。
9月7日~9月11日頃は、二十四節気で言うと「白露」、
七十二候は「草露白(くさのつゆしろし)」と名付けられています。
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二十四節気が白露になりました。
日中はまだ暑さが強いですが、季節は着実に進んでいます。
二十四節気の白露と、今回の七十二候「草露白」は
どちらも同じ意味合い。
朝晩に、草に降りる露が白く濁って見えるという意味。
露は、気温が下がることで空気中の水分が冷やされて出来ますが、
昔の人は、このように草に白露が降りる時期を、
夏から秋への転換期と考えたのです。
さて、
白露というと、思い出すのは『伊勢物語』の一場面。
「芥川」の段と呼ばれ、高校の教科書にも載っています。
簡単に説明すると、
ある男が、長年恋する身分の高い女性を攫って逃げてきたが、
結局、女を鬼に喰われてしまうというお話。
作中でははっきりと名は出てきませんが、
この男女は、在原業平と藤原高子のことだとされています。
高子は天皇の后になるために育てられた高貴な女性。
業平と高子は駆け落ちをするのだけれど、
高子の兄に見つかって連れ戻されてしまったという逸話があるのです。
兄に連れ戻されたことを、
「芥川」の物語では鬼に喰われたと表現しているのですね。
そんな「芥川」と白露が何故結びつくかというと、
駆け落ちの最中、草に降りた露を見て、
女が男に「あれは何?」と聞く場面があるのです。
貴族のお姫様は外になど出ませんから、
露が分からないのですね。
男は、女が鬼に喰われてしまった後、
君が「あれは白玉か何かなの?」と尋ねたときに、
「あれは露だよ」と言って、
露のように自分も消えてしまえれば良かったのに、と嘆くのです。
切ないですね。
なお、女が露のことを「あれは白玉?」と尋ねていますが、
白玉とは、もちろん白玉団子のことではなく、
真珠などの白くて美しい玉のことです。
白玉は、愛する人や大切な人のたとえとして使われることもありました。
つまり、「芥川」で「あれは白玉?」と言った女自身が、
男にとって白玉のごとき大切な存在だったということですね。
今回のお話はこれにて。
草の白露をご覧になりましたら、
ぜひ、しみじみと夏から秋への移り変わりを味わってみてくださいませ。